安倍首相、大失敗のイラン訪問
日本に挽回の可能性はあるのか?
イスラム法学者・中田考の考察
「中立」日本にやれることはある
現在の中東はグローバル、地域、国家のレベルで、国家と非国家主体の多くのプレーヤーが複雑に関わり、利害が錯綜し、イラク、シリア、リビア、イエメンは国家崩壊の危機にさらされています。もともとこの地域について情報もなく、エージェントも持っていない日本には、そもそも出来ることはほとんどありません。
自分にトランプとハーメネイの仲介ができ緊張を緩和できると勘違いした安倍のイラン訪問は、ハーメネイからトランプは相手にするに値しないと仲介をはっきりと拒否され、ローハーニーのG20大阪サミットへの招聘も実現できず失敗に終っただけでなく、対米強硬派を刺激し安倍の訪イ中に日本のタンカーが何者かに攻撃され、イランの犯行と断ずるアメリカとイランがあわや開戦かという一触即発の事態を招きました。その意味では大失敗です。
しかし、トランプがタンカー攻撃事件を重大視しないと明言したことで、戦争の危機は一旦回避され、アメリカとイランの緊張関係の焦点は再びイランの核問題に戻りました。トランプがポンペオらの対イラン主戦派とはっきりと一線を画し戦争の意図がないとのメッセージを送ったことで事態が変わったかもしれません。
そうなると日本政府が、タンカー攻撃事件でアメリカに即座に同調したイギリスと違い、フランス、ドイツと共に態度を保留したことは意味を持ちます。日本がアメリカから距離をおき、中立の立場を取ったことで改めて仲介の役割を果たしうる、と話を持ち掛けることが出来る状況になったからです。
安倍のイラン訪問での仲介が失敗し、逆に緊張を高めタンカー攻撃が起こることまでは、トランプには想定済みだったのかもしれません。その上でアメリカのイラン非難に日本が同調しないように日本での会談の中で秘密裏にあらかじめ安倍に指示し、自分はポンペイらと違いイランとの戦争を望まず真摯に対話をする意思がある、とのイランに対するメッセージとして「タンカー攻撃を重視せず」とトランプが述べたのであれば、トランプのメッセンジャーとしての安倍の役割はまだ終わっていないことになります。アメリカのイラン非難に同調しなかった中立の立場に立つ日本の首相として、イラン側に、ポンペイら対イラン主戦派を抑え平和を望むトランプとの対話を促し、再度ローハーニーのG20大阪サミットへの招聘をイラン側に働きかけることが出来るかもしれません。
日本の外交力が問われるのはこれから
そうであれば今こそ日本の外交力が試されていることになります。安倍のイラン訪問に対する最終的な判断を下すには、G20大阪サミットの結果を待つ必要があると思われます。
思えば、100年前、中国で大清帝国が倒れた後、オーストリア大公が暗殺されたサラエボ事件をきっかけにヨーロッパで戦争がはじまり、世界を巻き込む大戦争に至りました。この戦争は1500万人を超える死者とドイツ帝国・ロシア帝国・オーストリア=ハンガリー帝国・オスマン帝国の解体をもって集結したことは、ご存知の通りです。
それから100年が経った現在、東西ドイツが再統一を果たし、中国、ロシアが帝国として復活しつつあり、トルコもそれに続こうとしています。今の状況は、第一次世界大戦前の危機的状況に似てきているのかもしれません。そうした中で日本外交はこれからますます難しい舵取りを迫られることになるでしょう。はたして安倍政権にそれを担う能力があるのか、私たちは正しい判断を下せるよう、イデオロギーを離れて注意深く見守る必要があるでしょう。
その後、アメリカのドローンをイラン革命防衛隊が撃墜し、双方の非難の応酬が続いている。安倍の仲裁の話など一言も出ず、まるで仲裁などなかったかのように緊張がますます高まってる。